月がなくなったら地球はどうなる?潮・1日の長さ・地軸・生き物への影響

知っておきたい雑学

もし今夜、月が突然なくなったら、地球はどうなるのでしょうか。

こういう「もしも」の話は、少し油断するとすぐに地球滅亡へ向かいます。潮が止まり、自転が暴走し、地軸が倒れ、気候が崩壊する――。話としては派手ですが、調べてみると、実際にはすぐ起こる変化と、何百万年・何億年という時間をかけて起こりうる変化がかなり混ざっています。

先に答えると、月が消えた瞬間に地球が壊れたり、太陽へ落ちたりするわけではありません。ただし、影響が小さいわけでもない。月明かりは消え、月由来の潮汐は失われ、月の周期を使っている生き物は大きな環境変化に直面します。さらに長い時間で見れば、地球の自転の進み方や地軸の安定性にも違いが出る可能性があります。

この記事では、「月が爆発する」「破片が地球へ降り注ぐ」といった別の災害は考えず、月の質量だけが突然、跡形もなく消えたという思考実験にします。そのほうが、月そのものが地球へ何をしているのかを切り分けやすいからです。

結論――月が消えても地球はすぐ滅びない

最初に起こる変化は、かなり分かりやすいです。夜空から月が消えます。

満月も三日月もなくなり、月齢という見え方もなくなります。NASAのMoon Factsが説明しているように、月の満ち欠けは月が地球を回りながら、太陽に照らされる部分の見え方が変わることで起きています。月そのものがなくなれば、当然この周期も成立しません。

日食と月食もなくなります。日食は月が太陽の前を通ることで起こり、月食は月が地球の影へ入ることで起こる現象です。主役がいなくなるので、どちらも起こしようがありません。

では、地球の運動そのものはどうでしょう。

地球と月は、厳密には地球だけを中心にして月が回っているのではなく、両者の共通重心の周りを動いています。JPLはこの共通重心を barycenter(重心)と説明しており、惑星の軌道計算でも地球中心と地球・月系の重心は区別されています。

月が突然なくなれば、この地球・月系としての運動は当然変わります。ただ、それは「地球が太陽の周りを回れなくなる」という意味ではありません。地球の太陽周回を支配しているのは、地球と太陽の重力関係です。月が消えれば軌道条件に小さな変化は生じますが、地球がその場で太陽へ落下するような話ではありません。

混同しやすいのは、変化の時間尺度です。

月明かりがなくなるのは、その瞬間からです。潮のパターンは比較的短い時間で変わります。生き物への影響は種によって数日、数か月、世代単位で現れるでしょう。一方、自転や地軸の話は、現在の地球が一晩でまったく別の状態になるような変化ではなく、かなり長い時間をかけて効いてくる問題です。

ここを一緒にしてしまうと、「月が消えた翌朝には気候崩壊」という話になってしまいます。まず時間軸を分けるだけでも、だいぶ景色が変わります。

潮の満ち引きは「なくなる」のではなく、かなり弱くなる

月がなくなったら潮の満ち引きもなくなる――これは半分正しく、半分違います。

月は地球の潮汐に最も大きく関わる天体です。気象庁も、潮汐の主な原因を月の引力と、地球と月が共通重心の周りを運動することに伴う効果から生じる「起潮力」だと説明しています。同時に、太陽にも起潮力があるため、月がなくなっても海面の周期的な上下そのものが完全にゼロになるわけではありません。

では、太陽はどのくらい強いのでしょう。

NOAAの潮汐解説では、太陽の起潮力は月の約半分とされ、補助資料では計算上**約46%**と示されています。太陽は月より圧倒的に重いのですが、地球から非常に遠いため、潮を起こす力では月のほうが強くなります。

ただ、46%という数字をそのまま「月が消えたら潮位が今の46%になる」と読むことはできません。

46%という数字は、天体が作る起潮力の比較です。実際の海の潮位は、海盆の形、水深、海岸線、海底地形、共振、気圧や風などの影響も受けます。場所によって現在の潮差が全然違うのは、そのためです。したがって、月消失後の各港で「満潮が何センチになる」と一律に言うことはできません。

それでも、月の成分が失われれば、現在より潮汐が大幅に弱くなる地域が多いと考えるのは自然です。現在の大潮と小潮も、太陽と月の起潮力が同じ方向に重なったり、部分的に打ち消し合ったりすることで生まれます。月がなければ、この約1か月の組み合わせそのものが消え、太陽主導の別の潮汐環境になります。

海の水が、その瞬間にぴたりと止まるわけでもありません。月が消える直前まで海には潮流や波、海流が存在し、水そのものにも慣性があります。月の力だけを消しても、既に動いている海水が一斉停止する理由はないので、過渡的な揺れを経ながら新しい条件へ移っていく、と考えるほうが適切です。

そして、この変化は水位だけの話ではありません。潮間帯では、水に浸かる時間と空気にさらされる時間が繰り返されます。干潟や河口では潮によって塩分や水流も変わります。今の潮汐を前提に生きている生物から見れば、海岸の「一日のスケジュール」そのものが変わることになります。

1日の長さは急に変わらない――変わるのは未来の「ブレーキ」

月がなくなる話で、もう一つよく出てくるのが「1日が急に短くなる」という説です。

たしかに、月は地球の自転を遅くする方向に働いてきました。NASAの潮汐ロックの解説では、地球と月の潮汐相互作用による摩擦が地球の自転を遅くし、その角運動量のやり取りによって月が少しずつ遠ざかっていることが説明されています。

国立天文台も、地球の自転速度は長期的には主に潮汐摩擦によって遅くなっているとしています。現在の「1日約24時間」は、最初から固定されていた数字ではありません。地球の長い歴史のなかで、自転は少しずつ変化してきました。

ただし、ここから「だから月が消えれば、翌日から1日が昔のように短くなる」とはなりません。

現在の地球は、すでに現在の速さで自転しています。月が消えたからといって、過去に潮汐摩擦で失った回転が元に戻るわけではありません。地球の回転速度を一気に上げる新しい力が加わらない限り、現在の約24時間という自転状態は、少なくとも消失直後にはほぼそのままです。

変わるのは、その先です。

月が作る大きな潮汐がなくなれば、月による潮汐摩擦という長期的なブレーキは大きく弱まります。太陽による潮汐は残るため、潮汐摩擦が完全にゼロになるわけではありません。また地球の自転は、大気の動き、海洋、氷や陸水の分布、地球内部の核などにも影響されます。国立天文台が説明しているように、短い時間尺度では自転速度が単純に一方向へ遅くなるわけでもありません。

つまり、月がなくなった世界で「1日は何時間になるか」を一つの数字で答えるのは難しいのです。

言えるのは、その瞬間に24時間が大きく変わるのではなく、これまで地球の自転を長期的に遅らせてきた主要な仕組みが一つ失われるということです。

僕はここを調べていて、月消失の話が誤解されやすい理由が少し分かりました。「月は地球の自転を遅くしている」と「月がなくなると地球の自転が急に速くなる」は、似ているようで別の文です。長い歴史の作用と、明日の変化をつなげると、話が一気に飛んでしまいます。

地軸はすぐ倒れない。でも長期の安定性は下がる可能性がある

「月がなくなると地軸が不安定になり、地球の気候がめちゃくちゃになる」という説明もよく見かけます。

この話には、ちゃんと研究の背景があります。

1993年、J. Laskar、F. Joutel、P. Robutel はNatureに“Stabilization of the Earth’s obliquity by the Moon”を発表しました。obliquity は地球の自転軸の傾き、つまり黄道面に対する地軸の傾斜です。

論文では、現在の地球の傾きは平均約23.3度の周辺で±1.3度程度の小さな変動にとどまるとされています。対して月が存在しない仮想条件では、地軸の力学に広いカオス領域が現れ、ほぼ0度から85度付近までが不安定な領域になりうると示されました。月が地球の歳差運動に影響し、他の惑星から受ける摂動との共鳴を避ける方向に働く、という考えです。

この結果だけを見ると、「月がなければ地軸は0度から85度まで暴れ回る」と言いたくなります。

ところが、2012年にJack J. Lissauer、Jason W. Barnes、John E. Chambers がIcarusに発表した“Obliquity variations of a moonless Earth”は、もう少し慎重な絵を示しました。

彼らは仮想的な「月なし地球」をさまざまな初期条件で数値計算し、最大40億年にわたる自転軸の変化を調べています。その結果、現実の地球より傾きの変動は大きくなるものの、典型的なケースでは変動する範囲の幅が20〜25度程度に収まる状態が数億年続きました。計算した通常の太陽系条件では、理論上可能な0〜85度という全領域をそのまま行き来したわけではありません。

論文は、大きな月が地球型惑星の地軸安定に役立つこと自体を否定しているわけではありません。むしろ、「月がなければ必ず極端な地軸変動が起こり、高度な生命が育つのは無理」という強い言い方までは支持できない、としています。

月がなくなれば、現在の地球と同じような狭い範囲で地軸が安定し続ける保証は弱くなります。地軸の傾きが大きく変われば、緯度ごとに受ける日射量の季節変化も変わるため、気候には大きな影響が出る可能性があります。

ただ、それは「月が消えた翌年から地軸が90度近く倒れる」という話ではありません。しかも、長期的にどれほど不安定になるかは、モデルや初期条件によって幅があります。

1993年と2012年の研究を並べると、違いが見えてきます。月には地軸を安定させる働きがある一方、その働きを「なくなったら即、気候崩壊」と翻訳すると、研究が言っている以上の話になってしまいます。

生き物への影響は、まず海辺と「月の時計」を使う生物に出る

月の影響は、地球そのものだけではありません。生き物のなかには、月の周期を環境の時計として使っているものがいます。

分かりやすい例がサンゴです。

2021年にPNASへ掲載されたChe-Hung Linらの“Moonrise timing is key for synchronized spawning in coral Dipsastraea speciosa”は、サンゴ Dipsastraea speciosa の一斉産卵を調べた研究です。野外で月光を遮る実験などから、満月後に生じる「日没から月の出までの暗い時間」が、産卵時期をそろえる重要な手がかりになることが示されました。

つまり、このサンゴにとって月は、夜を照らすだけのものではありません。いつ産卵するかを周囲とそろえるための時間情報にもなっています。

海産のゴカイ Platynereis dumerilii でも、月周期に合わせて生殖タイミングを調整する仕組みが研究されています。2022年のNature Communications論文A Cryptochrome adopts distinct moon- and sunlight states…は、この月周期を分子レベルから調べています。光受容に関係するクリプトクロムが太陽光と月光の状態を読み分け、月周期の内部時計を合わせる仕組みに関与することが示されました。

さらに、月そのものを消す実験はできませんが、「自然な夜の光周期を乱すとどうなるか」を見る研究もあります。

2023年のNature Communications論文“Global disruption of coral broadcast spawning associated with artificial light at night”では、世界各地のサンゴの産卵観察2135件が分析されました。人工夜間光にさらされたサンゴでは、多くの属で産卵時期が自然な暗い海域とずれていることが示されています。月周期に合わせた産卵は、光だけでなく水温や潮など複数の手がかりを使っていますが、自然な夜の明るさが生殖同期に関わることはかなり具体的に見えてきています。

月がなくなれば、こうした生物は二つの変化を同時に受けます。

一つは月光周期の消失。もう一つは潮汐環境の変化です。

潮間帯の生物にとっては、水中と陸上のような状態を行き来するリズム自体が変わります。産卵や移動を潮に合わせる種では、従来のタイミングが合わなくなる可能性があります。捕食者と獲物の活動時間にも変化が出るでしょう。

とはいえ、ここから「月が消えたら海の生態系は即崩壊する」と断定するのも行きすぎです。

月周期への依存度は種によって違います。月以外の光、温度、季節、潮流など複数の合図を使う生物もいますし、変化へ適応できる種とできない種が出るはずです。全球の生態系を丸ごと月なし条件に置いた実験など当然ありません。

確実に言える範囲は、月光と潮汐を環境情報として利用している生物が実際に存在し、その二つが同時に大きく変われば、生態系の一部に無視できない影響が出るというところまでです。

夜空と人間の暮らしから消えるもの

地球物理の話ほど派手ではありませんが、人間が最初に実感するのは、たぶん夜空でしょう。

満月の夜も、細い三日月もなくなります。新月から満月へ向かう周期もありません。夜がなくなるわけではありませんが、月明かりという周期的な自然光が消えるため、人工照明のない場所では夜の明るさの変化がかなり単調になります。

月を使った暦も、基準となる天体現象を失います。

現在も太陰暦や太陰太陽暦の考え方を文化・宗教行事に用いる社会がありますし、日本語にも「月」という単位がそのまま残っています。月が突然消えたとしても、法律やカレンダーを翌日から全部捨てる必要はありませんが、「月の満ち欠けを観測して区切る」という元の天文学的基準は使えなくなります。

天文学でも大きな変化です。日食や月食が二度と起こらないだけでなく、地球から月面を観測することも、月を使った測距もできなくなります。逆に、月が明るく照らしていた夜には、暗い天体の観測がしやすくなる場面も増えるでしょう。

このあたりは、人類が生き残れるかどうかという話ではありません。ただ、月が物理学だけでなく、時間の数え方、夜の景色、観測、文化のなかにかなり深く入り込んでいることは分かります。

僕の考察――月は「地球を支える一本の柱」より、いくつものリズムを重ねる存在

今回の資料を並べてみると、僕は「月がなくなったら地球は終わる」という一文より、別の見方のほうがしっくりきました。

月は、地球を一本で支えている柱というより、いくつもの別々のリズムへ同時に関わっている天体に見えます。

潮には比較的直接的に効いている。地球の自転には、潮汐摩擦を通じて長い時間をかけて効いている。地軸には力学的な安定化として関わるけれど、その効果を外した未来がどこまで荒れるかには研究上の幅がある。生き物に対しては、重力だけでなく、月光という情報まで使われています。

これらを全部まとめて「月が消えた瞬間に起こること」にしてしまうと、とても怖い話になります。でも、時間軸を分けると、科学としてはむしろ面白くなります。

明日変わるものと、数百万年後に効くかもしれないものは同じではありません。確実な影響と、数値モデルから予測している影響も同じではありません。

月は確かに地球へ大きな影響を与えています。ただ、その重要さは「なくなったら即滅亡」という派手さより、潮、自転、地軸、光、生物時計という別々の仕組みに静かに入り込んでいるところにある。僕は調べ終えて、そちらのほうが月の存在感をずっと大きく感じました。

参考文献・出典

この記事を書いた人
深夜3時の駄貧知 運営者
駄貧知

駄貧知|小説とブログを書く物書き。日常の違和感を出発点に、心理、科学、歴史、都市伝説を研究や史料をもとに調べています。「説は疑う。でも、ロマンまでは捨てない」を基本姿勢に、事実と考察を分けながら、人間や世界の不思議を考えます。

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