あくびはなぜうつる?「共感力が高いから」だけでは説明できない仕組み

知っておきたい雑学

この記事のタイトルを読んだだけで、少し口を開けたくなった人がいるかもしれません。隣の人が大きなあくびをすると、眠くなかったはずの自分までつられてしまう。動画でも起こり、場合によっては音を聞いただけ、あくびについて読んだだけでも「したい」という感覚が出てきます。

この現象は「伝染性あくび」と呼ばれています。現在もっとも慎重に言えるのは、他人のあくびに関する刺激が、自分の脳にある運動の仕組みと、あくびをしたいという衝動を自動的に呼び起こすということです。ただし、なぜその仕組みがあるのか、脳内でどの経路が決定的なのかまでは分かっていません。

「共感力の高い人ほどあくびがうつる」という説明も有名ですが、研究結果はきれいにはそろっていません。親しい人ほど伝染しやすいとする観察研究がある一方、大規模な実験では共感尺度との関係が見つからず、批判的レビューも証拠は不十分だと結論づけています。

あくびがうつったかどうかで、人の優しさを採点するのは早すぎるようです。では実際のところ、私たちの身体では何が起きているのでしょうか。

PR・広告

自然か、宇宙か、神秘か。目を疑う3つの珍品

岩から生える金属の立方体、宇宙から届いた石鉄隕石、 そして迫力あるマハーカーラ像。
写真だけでも思わず見入る、不思議な3品を集めました。

これが大黒天!?異形の神像

大黒天(マハーカーラ) 銅造彫金仕上げ

価格:528000円
(2026/10/22 06:57時点)

あくびは「見る」だけでなく、音や文字でもうつる

まず区別したいのが、自発的なあくびと伝染性あくびです。

自発的なあくびは、眠りに入る前後、退屈しているとき、覚醒状態が変わるときなどに出ます。一方の伝染性あくびは、他人があくびをする姿を見る、声を聞く、あくびを想像するといった刺激によって誘発されます。口を大きく開け、深く息を吸い、短く力が入ってから吐くという動作はよく似ていますが、出発点が違います。

視覚だけの現象でもありません。Stephen R. Arnottらが2009年に発表した聴覚による伝染性あくびの研究では、姿が見えなくても、あくびの音があくびの衝動を誘発することが調べられました。さらに過去の実験では、あくびについて読んだり考えたりするだけでも引き金になりうることが報告されています。

ここまで「あくび」という言葉を何度も読まされると、研究の説明を読んでいるのか、実験に参加させられているのか、少し分からなくなります。それほど刺激の入口が広い現象だということです。

ただし、誰にでも必ずうつるわけではありません。Alex J. BartholomewとElizabeth T. Cirulliが2014年に発表した328人の研究は、先行する統制実験では健康な参加者のおよそ40〜60%があくび刺激に反応していたと整理しています。数字は刺激映像、観察時間、本人が記録するのか研究者が観察するのかによって変わるため、「人類の何%」という固定値ではありません。それでも、反応する人としない人が自然に分かれることは確かです。

同じ人の中でも完全なオン・オフではないものの、反応しやすさには安定性があります。2014年の研究では、研究室と自宅など場所を変えて再検査した人を含む129人のうち、78.3%が「あくびをした/しなかった」という同じ分類に残りました。反応しなかった人の多くは我慢したのではなく、そもそも「あくびをしたい」と感じなかったとも答えています。

つまり伝染性あくびは、単なる思い込みだけでは片づけにくい一方、全員に同じ強さで出る反射でもありません。外から届く刺激と、その人の脳や注意、置かれた状況が重なって表に出る現象です。

脳は他人のあくびを見て「自分もしたい」を作る

他人の動作を見て自分も同じ動きをしたくなる、と聞くと、「ミラーニューロンがまねをさせている」と説明したくなります。分かりやすいのですが、現在の研究はそこまで単純ではありません。

2005年にSteven M. Platekらが行った脳画像研究では、あくびを見ると、自己に関する処理や他者の心を考える働きに関係する後部帯状回や楔前部に特徴的な活動が見られました。別のFatta B. NahabらのfMRI研究では、あくび動画を見たときの衝動と腹内側前頭前野の活動が関連しましたが、あくび特有の活動を、よく語られるミラーニューロン系だけに絞る結果にはなりませんでした。

脳画像で難しいのは、ある領域が活動したからといって、その領域に結びつけられている心理作用が原因だとは限らないことです。腹内側前頭前野も後部帯状回も、共感専用の部品ではありません。価値判断、自己に関する処理、社会的な情報処理など複数の働きに関わります。写真の中で電気がついている部屋を見つけても、そこで何の会議をしているかまでは分からない、という程度の慎重さが必要です。

もう少し直接的に運動系を調べたのが、Beverley J. Brownらによる2017年のA Neural Basis for Contagious Yawningです。成人36人にあくび動画を見せ、自由にあくびをしてよい条件と、あくびを抑える条件を比べました。同時に経頭蓋磁気刺激を使って、一次運動皮質の興奮性や生理的な抑制を測っています。

結果は、伝染性あくびの個人差が一次運動皮質の興奮性と抑制の違いに関連していました。さらに経頭蓋直流刺激で運動皮質の興奮性を高めると、あくびの傾向も変化しました。相関を見るだけでなく脳の状態を操作して反応が変わったため、運動系が現象の一部に関わるという説明には一歩強い根拠があります。

この実験でもう一つ面白いのは、「あくびをしない」と「したくならない」が別だったことです。あくびを抑えるよう指示されると、完全なあくびは減っても、口元だけ動く抑えたあくびが増え、本人が報告する衝動は強くなりました。意志で動作を止めても、引き金そのものが消えるわけではなかったのです。

ここから考えると、伝染性あくびは「他人に共感したので意識的にまねをする」という順序より、見聞きした刺激が運動の準備や身体感覚を先に動かし、あとから本人が衝動として気づく現象に近そうです。ただ、36人の実験だけで全員の仕組みが確定したわけではなく、社会的な意味や進化上の役割も別の問題として残ります。

「あくびがうつる人は共感力が高い」は言い切れない

共感説には、そう考えたくなるだけの研究があります。

Ivan NorsciaとElisabetta Palagiは、2010〜2011年に109人の成人を自然な場面で観察し、あくびをした人と周囲にいた人の関係を記録しました。Yawn Contagion and Empathy in Homo sapiensによると、伝染の起こりやすさ、回数、反応までの時間をもっともよく予測したのは社会的な結びつきでした。反応は親族、友人、知人、他人の順に強く、親しい人のあくびほど早く、よくうつったのです。

この並びは、相手に感情移入しやすい関係の順序と重なります。伝染性あくびが、他者の状態を自分の中へ取り込む原始的な共感の一部だという見方には、かなり魅力があります。子どもでは伝染性あくびが乳児期から同じように現れるわけではなく、発達の途中で目立つようになることや、社会認知に関係する脳領域が反応する研究も、この見方を支えてきました。

しかし、「親しい人ほど反応した」から「原因は共感だ」と直結させることはできません。私たちは知らない人より家族や友人の顔をよく見ますし、細かな変化にも気づきやすくなります。親密さが共感を高めたのではなく、単に注意を向ける量や刺激を受け取る確率が違った可能性が残ります。自然観察には日常らしさという長所がある一方、視線や注意を完全には統制できません。

2014年の328人研究では、3分間のあくび動画と認知課題、共感、感情伝染、眠気、生活リズムなどの質問票を組み合わせて個人差を調べました。単純な分析ではいくつかの項目があくびと関連したものの、年齢を含めて分析すると、共感尺度、現在の眠気、概日選好、認知成績などの影響は有意ではなくなりました。有意だったのは年齢だけで、それも反応のばらつきの約8%しか説明しませんでした。

Jorg J. M. MassenとAndrew C. Gallupは2017年の批判的レビューWhy contagious yawning does not (yet) equate to empathyで、個人差、共感質問票、親密さ、性差、発達、臨床集団、脳画像などの研究を横断的に検討しました。共感との関係を調べた22のテストのうち、予測した方向で有意だったものは6件。研究ごとに用いる共感尺度も違い、肯定と否定の結果が混在していました。

レビューの結論は、「共感は無関係だ」と切り捨てることではありません。直接の関係を示す証拠が一貫せず、注意や社会的抑制など別の要因を除き切れていないため、現時点では同一視できない、というものです。

この違いは大切です。共感が何らかの役割を持つ可能性は残っていますが、あくびがうつることを共感力の測定器にする根拠はありません。まして一度うつらなかっただけで、「冷たい人」「他人の気持ちが分からない人」と決めることはできません。

うつらない日があっても不思議ではない

なぜ反応しない人がいるのか。2014年の研究で年齢は唯一の有意な予測因子になり、年齢が上がるほど反応しにくい傾向がありました。しかし説明できたのは個人差の8%ほどなので、「若いからうつる」「年を取るとうつらない」と個人に当てはめられるほど強いものではありません。残りの大部分は、調べた共感尺度、眠気、生活リズム、知能などでは説明できませんでした。

しかも、反応は本人の性質だけで決まりません。Andrew C. Gallupらは2016年のSocial Presence Diminishes Contagious Yawning in the Laboratoryで、105人の大学生に約170秒の動画を見せ、周囲の状況を変えました。条件は一人きり、目の画像がある、何も説明されていないカメラがある、録画中だと説明されたカメラがある、実際に研究者がいる、の五つです。

一人きりの条件では57%があくびを報告したのに対し、研究者がいる条件では19.0%、録画中と伝えられた条件では9.5%でした。単に目の画像や停止中のカメラが置かれた条件より、「見られている」と明確に意識した条件で強く減っています。

ところが、研究者がいる条件では66.7%、録画中の条件では55.0%が、実際にはあくびをしなかったのに衝動を感じたと答えました。人前であくびをするのは失礼だという意識や、観察される緊張によって、出かかった反応を止めた可能性があります。研究者も、社会的な規範による抑制なのか、覚醒水準が上がったからなのかまでは決めていません。

この結果を先ほどの運動皮質研究と重ねると、少なくとも三段階を分けた方がよさそうです。

最初に、相手のあくびへ注意を向けて刺激を受け取る。次に、脳内であくびの運動準備や「したい」という衝動が生じる。最後に、実際の動作として表に出るか、状況に応じて抑える。どこか一つが弱かったり、測定時に止めたりすれば、観察上は「あくびがうつらなかった」ことになります。

だから一回の反応だけでは、その人の内側で何が起きなかったのかまで分かりません。共感尺度はもちろん、自閉スペクトラム症、統合失調症、サイコパシーなどの判断材料にもできません。特定の集団を比較した研究があっても、個人の一回の行動から診断や人格を逆算するのは、研究が答えられる範囲を大きく越えています。

では、なぜこの仕組みが残ったのか

直接の仕組みとは別に、「そもそも、あくびが仲間へ広がることに何の意味があるのか」という疑問があります。ここは現在も仮説の領域です。

一つは、集団の状態をそろえるためという考えです。あくびは睡眠の前後や活動の切り替わりに多く出ます。誰かのあくびをきっかけに仲間も反応すれば、休息から活動へ、あるいは活動から休息へという切り替えが集団内でそろいやすくなるかもしれません。

もう一つは、覚醒や警戒の共有です。自発的なあくびには脳の温度調節や覚醒状態の変化が関係するという仮説があり、その反応が群れへ広がれば、周囲への注意をまとめて変える働きを持つ可能性があります。社会的な動物の一部で伝染性あくびが報告されていることも、集団機能を想像させます。

ただし、想像しやすいことと実証されていることは同じではありません。2017年の批判的レビューも、コミュニケーション、行動同期、警戒などの機能仮説を挙げながら、人間でその利益を直接確かめた実験はほとんどないとしています。あくびが集団を同期させるために進化したのか、別の神経機構から生まれた副産物が社会場面で目立つようになったのか、まだ決着していません。

親しい人ほど伝染しやすいという結果も、共感仮説だけでなく、集団内で状態を同期する仮説と両立します。反対に、親密さの効果を確認できなかった研究もあるため、どの説明も一つの結果だけで勝者にはできません。

今のところ、進化上の「目的」を一つに決めるより、近い原因と遠い機能を分ける方が正確です。近い原因としては、刺激への注意、運動皮質の興奮性と抑制、社会場面での表出抑制が関係している。一方、それがなぜ残ったのかについては、共感、同期、警戒などの仮説が競合している段階です。

結論:あくびの伝染は、共感だけでなく運動・注意・抑制が重なる現象

あくびがうつる現象そのものは、実験でも自然観察でも確かめられています。姿を見るだけでなく音を聞いても起こり、あくびについて考えることさえ引き金になります。脳では他人の動作に触れたことで、あくびの運動準備や「したい」という衝動が自動的に生じると考えられ、一次運動皮質の興奮性が個人差の一部に関わる研究もあります。

そこへ、誰のあくびに注意を向けたか、人に見られているか、衝動を表に出さず抑えたか、年齢を含む個人差が重なります。このため、外から見た一回の「あくびをした/しなかった」だけで、原因を一つに絞ることはできません。

親しい人ほど伝染しやすい研究は共感説と整合しますが、大規模研究では共感尺度との関係が見つからず、レビューでも結果は不一致でした。「共感が関係する可能性」と「伝染性あくびで共感力を測れること」の間には、まだかなり距離があります。

僕は調べる前、あくびがうつるのは単純な物まねに近いと思っていました。けれど、動作を我慢しても衝動だけは強くなったり、人に見られていると表へ出にくくなったりする研究を読むと、見えるあくびの手前にいくつもの段階があることの方が面白く感じます。

この記事を読み終えるまでに少し口が開いたなら、共感力の点数はつけず、意識より先に身体が動きかけたことだけを面白がるくらいが、今の研究にはちょうどよさそうです。

参考文献・出典

コメント

タイトルとURLをコピーしました