「心配事の96%は起こらない」という言葉を見かけることがあります。数字が大きいので、心配で頭がいっぱいのときには少し安心できる言葉です。
ただ、この96%を「人が未来について心配したことの96%は、実際には起こらない」と、そのまま科学的な確率として受け取るのは難しそうです。出典をたどると、96%という数字は複数種類の心配をまとめて作られたもので、そのすべてが「予測した未来が外れた」という意味ではありませんでした。
一方で、心配した内容を実際に記録し、その後どうなったかを追跡した査読研究はあります。全般性不安症(GAD)の参加者を対象に、2020年研究では記録された心配予測の91.4%、2026年のランダム化比較試験ではWOM群が追跡した「恐れていた結果」の89.14%が実現しなかったと報告されています。
数字だけを見ると、96%にかなり近く感じます。でも、ここは同じ話ではありません。
今回調べてみると、面白かったのは「何%だったか」より、その数字が何を数えたものなのかでした。96%の出典から、現代の研究まで順番に見ていきます。
96%の出典をたどると、少なくとも1963年までさかのぼる
まず確認しておきたいのは、現在よく見かける「96%」より前に、よく似た割合の話が存在していたことです。
1963年9月11日発行の宗教誌 Herald of Holiness を確認すると、誌面の引用欄に「Dr. Walter Cavert tells of a physician of wide experience…」という記述があります。そこでは、ある経験豊富な医師が、かつて患者だった「心配する人たち」を分析した話として、次の割合が紹介されています。
- 40%:実際には起こらなかったことを心配していた
- 30%:すでに過去となり、本人には変えられないことを心配していた
- 12%:健康について心配していたが、病気は想像上のものだった
- 10%:家族、友人、近隣の人などについて心配していたが、多くは十分な根拠がなかった
- 8%:改善する必要のある現実的な状況に、ある程度の根拠があった
1963年の原誌面では、末尾にPaul S. Reesの名もあります。
40+30+12+10で92%です。ここだけを見ると、「心配の92%は無駄」という話に見えます。
けれど、内訳を読むと、40%以外は単純な「未来予測が外れた割合」ではありません。30%は過去のことです。12%と10%も、書かれているのは「未来に起きなかった」という一つの基準ではなく、健康への不安や他人についての不安がどの程度現実に根拠を持っていたか、という分類です。
もう一つ大事なのは、この誌面が元の研究論文ではないことです。
誌面に書かれているのは、Walter Cavertが「ある医師」の分析について語った、という形です。医師の氏名、対象人数、調査期間、集計方法、診断の有無などは分かりません。今回確認できた範囲では、この割合を生み出した原研究まではたどれませんでした。
そのため、「Walter Cavertが科学的調査を行い、心配の92%が無駄だと証明した」とまでは言えません。ただし、少なくとも1963年には40・30・12・10・8という割合の話が印刷物に存在していたことは確認できます。
ネット上では、この割合をもっと新しい研究として紹介する説明もあります。しかし1963年にすでに同じ型がある以上、少なくとも「2000年代に初めて行われた調査」という説明とは年代が合いません。
ゼリンスキーの96%は「未来に起きなかった割合」ではない
現在の「96%」としてよく紹介される形は、カナダの著述家Ernie J. Zelinskiの一般向け著作 101 Really Important Things You Already Know, But Keep Forgetting のChapter 21 “All Worry Is Wasted”でも確認できます。
そこでは、おおむね次のような分類が示されています。
| 分類 | 割合 | そのまま「未来に起きなかった」と言えるか |
|---|---|---|
| 起こらない出来事への心配 | 40% | この分類なら近い |
| すでに起きた出来事への心配 | 30% | 過去の話なので別 |
| 取るに足らない事柄への心配 | 22% | 「起きない」という意味ではない |
| 現実に起きるが変えられない事柄 | 4% | 起こらないとは言えない |
| 働きかけられる現実的な事柄 | 4% | 行動につながる可能性がある |
最後の4%以外を足すと96%になります。
しかし、30%はすでに起きたことですし、22%は「取るに足らない」という分類です。さらに4%は「現実に起きるが変えられないこと」。つまり、96%全部を「未来について心配したが、結局起こらなかった」と読み替えることはできません。
ゼリンスキーの分類は、先ほどの1963年の40・30・12・10・8とよく似ていますが、後半のカテゴリーと割合が変わっています。1963年の記述がどの経路で40・30・22・4・4へ変化したのか、今回確認した資料だけでは分かりません。
また、ゼリンスキーの記述には「Studies show」という表現がありますが、僕が確認できた英語版では、この40・30・22・4・4を直接導いた原著論文や調査方法までは特定できませんでした。
だからといって「96%は完全な作り話だ」とまで決めつける必要もありません。確認できないものは、確認できないままにしておくのが一番正確です。
少なくとも言えるのは、96%を、すべての人の未来の心配に共通する科学的な非発生率として使う根拠は確認できないというところまでです。
実際に心配の結果を追った研究では91.4%と89.14%だった
本当に「心配したことが起きたか」を後から追った研究もあります。
ペンシルベニア州立大学のLucas S. LaFreniereとMichelle G. Newmanは、Worry Outcome Journal(WOJ)という方法を使って、全般性不安症の人が日常で抱いた心配と、その結果を追跡しました。
2016年のランダム化比較試験では、臨床水準の全般性不安症がある51人が、WOJ群とThought Log(思考記録)群に無作為に分けられています。
WOJ群の参加者は10日間、1日4回、心配している内容を記録し、その心配がどの程度苦痛か、どれくらい生活を邪魔しているか、予想した結果が起こると思う確率などを書きました。そして後から実際の結果を追跡します。対照群は、心配の結果を追うのではなく、日常の考えを記録しました。
この研究では、WOJ群のほうが介入後の心配の減少が大きくなりました。
その後、WOJ群のデータを詳しく分析したのが2020年の論文です。解析対象は全般性不安症の29人。参加者は10日間、促されたときに心配を書き、夜に見直し、最大30日間にわたって結果を追跡しました。記録された内容は独立した評価者によってコード化されています。
そこで報告されたのが、心配の予測の91.4%が実現しなかったという数字です。
参加者が心配していた時点で見積もった「起こりそうだ」という感覚は、実際に観察された発生率よりかなり高くなっていました。また、実現しなかった心配の割合が高い人ほど、治療後の全般性不安症状が低く、症状の減少も大きいという関連が報告されています。
さらに2026年には、Jeremy T. SchwobとMichelle G. Newmanが、スマートフォンを使うWorry Outcome Monitoring(WOM)のより大きなランダム化比較試験を報告しました。
研究全体では、全般性不安症の117人をWOM群60人と、心配の結果までは追わず思考を記録するThought Recording群57人に無作為に分けました。10日間、1日4回に加えて一日の終わりにも、それぞれの課題を記録しています。
ここで報告された**89.14%**は、117人全員の心配をまとめて計算した数字ではありません。WOM群が記録して追跡した「恐れていた結果」のうち、実際には起こらなかった割合です。
さらに、WOM群で恐れていた結果が実際に起きた10.86%のケースでも、84.35%では参加者が自分の予想よりうまく対処できたと報告されています。WOM群では対照群より、心配そのものだけでなく、「心配することには役に立つ面がある」という肯定的信念や、対比回避の低下も大きくなりました。
91.4%と89.14%。確かに、どちらも「9割前後」です。
ただ、この近さだけを見て「やっぱり96%説は正しかった」と結論づけると、また数字の意味が混ざってしまいます。
92%・96%・91.4%・89.14%は、同じ数字ではない
ここまで出てきた数字を、一度並べてみます。
| 数字 | 資料・研究 | 対象 | 何を数えたか | その数字だけでは言えないこと |
| 92%型 | 1963年 Herald of Holiness | 元の対象詳細は不明 | 40・30・12・10・8のうち最後の8%以外 | 未来の心配の92%が外れた |
| 96%型 | Zelinskiの一般向け著作 | 元の調査詳細は不明 | 40・30・22・4・4のうち働きかけられる4%以外 | 未来の心配の96%が外れた |
| 91.4% | LaFreniere & Newman, 2020 | GADの29人 | 記録された心配予測のうち実現しなかった割合 | 一般人口の全心配の非発生率 |
| 89.14% | Schwob & Newman, 2026 | RCT全体はGADの117人(WOM 60人/TR 57人) | WOM群が記録・追跡した恐れていた結果のうち、起こらなかった割合 | 誰にでも共通する心配の非発生率 |
こうして見ると、数字は近くても、測っているものが違います。
92%型と96%型は、複数のカテゴリーを合計した一般向けの割合説です。2020年と2026年の数字は、全般性不安症の参加者が実際に記録した心配の予測と結果を追跡した研究から出ています。
僕も最初は「96%に近い研究結果が本当にあるなら、結局だいたい正しいのでは」と考えたくなりました。ただ、原資料を並べると、それでは少し雑です。
割合は、数字が近くても「分母と数え方」が違えば別の意味になります。
96%という言葉の真偽を考えるときも、「9割前後という研究があるか」ではなく、その研究が誰の、どんな心配を、どの方法で追ったのかまで見る必要があります。
なぜ「あなたの心配の約9割は起きない」とは言えないのか
2020年と2026年の研究は、心配の予測が現実より悲観的になっていることを考えるうえで、かなり興味深い結果です。
それでも、この記事を読んでいる人に「あなたの心配も9割は外れます」とは言えません。
第一に、対象が一般人口ではありません。
2020年は全般性不安症の29人、2026年研究全体では117人です。どちらも臨床的なGADを対象にした研究であり、日本を含む一般人口を無作為に集めた調査ではありません。
第二に、これは「普段どおり暮らしている人の頭の中を外から観察して、心配を全部数えた研究」ではありません。
参加者は研究の中で心配を記録し、予測を具体化し、後から結果を確認しています。こうした自己観察そのものが、心配の仕方や行動に影響する可能性があります。実際、WOJやWOMは単なる測定ではなく、心配を減らすための介入として研究されています。
第三に、結果を判定できる心配ほど記録しやすいという問題があります。
「明日の発表で質問にまったく答えられない」「金曜日までに返事が来ない」といった心配なら、あとで当たり外れを確かめられます。
一方、「いつか一人になるかもしれない」「将来ずっと不幸かもしれない」のような、期間も判定条件も曖昧な心配は同じ方法では追いにくい。研究で扱える心配と、人が抱くあらゆる不安が完全に同じとは限りません。
そして、心配したからこそ行動した可能性もあります。
試験が心配で勉強した。締め切りが心配で早めに確認した。雨が心配で傘を持った。その結果、悪いことが起こらなかったとしても、「心配は完全に無意味だった」とは言い切れません。心配が行動を変え、結果にも影響したかもしれないからです。
「起きなかった割合」と「心配する価値がなかった割合」は、同じではありません。
2020年の91.4%と2026年の89.14%は、その研究条件では明確に報告された数字です。しかし、それを一般向けの「心配は9割外れる法則」に変えるところで、一段飛躍が入ります。
心配はゼロにすべきではない――役立つ不安と反復する心配を分ける
とはいえ、心配そのものをゼロにすべきだという話でもありません。
国立精神・神経医療研究センターの「不安症|こころの情報サイト」でも、不安そのものは病気ではなく、適切な不安は対策を立てたり、大きな失敗を避けたりする助けになると説明されています。
締め切りを忘れそうだから予定に入れる。体の異変が続くから受診する。災害が心配だから避難経路を確認する。こうした不安は、現実の行動へつながります。
問題になりやすいのは、必要な行動を決めても、同じ心配が繰り返し続く場合です。
「資料をもう一度確認しよう」と決めたあとも、「見落としがあるかもしれない」「確認の仕方が間違っているかもしれない」「そもそも自分は気づけないかもしれない」と心配が続く。考える量は増えても、新しい情報や新しい行動が増えていない状態です。
Michelle G. NewmanとSandra J. Lleraが2011年に提案したContrast Avoidance Model(対比回避モデル)では、全般性不安症の心配が続く理由の一つとして、平穏な状態から突然強いネガティブ感情へ落ちる「感情の落差」を避けるため、あらかじめ心配してネガティブな状態を維持する可能性が論じられています。
これはすべての心配を説明する確定した法則ではありません。ただ、「心配しておけばショックが小さい」「悪いことを想定しておいたほうが安全だ」という感覚が、心配を続ける理由になり得るという考え方です。
2026年のWOM研究でも、WOM群では対照群よりcontrast avoidanceの低下が大きかったと報告されています。
心配には、現実の危険へ対応するためのものもあれば、同じ予測を繰り返し続けるものもあります。ひとまとめに「全部無駄」「全部必要」と決めないほうが、研究にも実際の生活にも合っています。
数字より役立つのは、心配を「予測」と「結果」に分けて見ること
96%、91.4%、89.14%。
WOJやWOMで共通していたのは、心配をただ「不安だ」と感じたままにせず、何が起こると予測しているのかを記録し、あとで現実の結果を確認することでした。
たとえば「明日の説明が怖い」だけでは、何が心配なのか曖昧です。
「質問を一つも答えられず、説明が途中で止まる」と書けば、結果をあとで確かめられます。実際には質問が二つ来て、一つは答え、一つは後日回答になったなら、最初の予測と現実の差が見えます。
悲観的な予測を「絶対大丈夫」という楽観的な予測に交換すればよいわけでもありません。それも根拠のない予測になり得ます。
「何が起きると思っているのか」「いつなら結果が分かるのか」を分ける。結果が出たら、予測と現実を比べる。
研究で行われた介入を、自分だけで同じ治療として再現できるという話ではありません。ただ、「心配を具体的な予測として扱い、現実の結果へ戻る」という考え方には、少なくともWOJとWOMの研究があります。
同時に、何でも「どうせ9割は起きない」で片づけるのは危険です。
火災や災害、暴力、虐待、急な胸痛や呼吸困難、詐欺の疑い、返済や法的手続きの期限など、起きた場合の重大さが大きいことや、すでに現実の問題として対応が必要なことは、割合で無視する話ではありません。
不安が強くなり、仕事や勉強、外出、睡眠など生活に影響している場合も同じです。国立精神・神経医療研究センターは、不安が強く生活や行動へ影響が出ていると感じる場合には専門家への相談を案内しています。また、動悸や呼吸困難などがある場合には、身体疾患が関係することもあるため、内科的な確認が必要になる場合があるとしています。
心配を記録すること自体が苦しくなったり、確認を何度も繰り返さずにはいられなくなったりするなら、無理に続ける必要もありません。
今回、96%という数字を追っていて、僕の見方は少し変わりました。最初に知りたかったのは「96%は正しいのか」でしたが、最後に残ったのは「その数字は何を数えたものなのか」です。
これから大きな割合を見かけたら、僕は数字そのものより、まず分母と測り方を見ると思います。自分の心配についても、「何が起きると予測しているのか」「いつ現実と比べられるのか」を分けてみる。今回の調査で、僕に残ったのはその見方でした。
参考文献・出典
- Herald of Holiness, Vol. 52, No. 29, September 11, 1963. デジタル化PDF
- Zelinski, E. J. (2007). 101 Really Important Things You Already Know, But Keep Forgetting. Visions International Publishing / Ten Speed Press. Chapter 21 “All Worry Is Wasted.” 著者公式書籍ページ
- LaFreniere, L. S., & Newman, M. G. (2016). A BRIEF ECOLOGICAL MOMENTARY INTERVENTION FOR GENERALIZED ANXIETY DISORDER: A RANDOMIZED CONTROLLED TRIAL OF THE WORRY OUTCOME JOURNAL. Depression and Anxiety, 33(9), 829–839. https://doi.org/10.1002/da.22507
- LaFreniere, L. S., & Newman, M. G. (2020). Exposing Worry’s Deceit: Percentage of Untrue Worries in Generalized Anxiety Disorder Treatment. Behavior Therapy, 51(3), 413–423. https://doi.org/10.1016/j.beth.2019.07.003
- Schwob, J. T., & Newman, M. G. (2026). A brief ecological momentary intervention for generalized anxiety disorder: A randomized controlled trial of the worry outcome monitoring app. Journal of Anxiety Disorders, 120, 103160. https://doi.org/10.1016/j.janxdis.2026.103160
- Newman, M. G., & Llera, S. J. (2011). A novel theory of experiential avoidance in generalized anxiety disorder: A review and synthesis of research supporting a Contrast Avoidance Model of worry. Clinical Psychology Review, 31(3), 371–382. https://doi.org/10.1016/j.cpr.2011.01.008
- 国立精神・神経医療研究センター「不安症|こころの情報サイト」



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